「今日すっごく楽しかった!」

電車を降りて、人で溢れかえる駅の構内から出て、愛海が声を上げた。

見慣れた街を照らす空の色は、ほんのりオレンジ色。


「俺も良い息抜きになった。誘ってくれてありがと」

櫻井くんが微笑んで、愛海は照れ笑いを浮かべながら首を横に振る。

そして、そのまま……あたしにチラッと視線を送る。

小さな合図。

「じゃあ、あたしそろそろ……」

「ああ、帰る?」

櫻井くんに尋ねられて、こくんと頷いた。

彼の目はわざと見ない。


「確か愛ちゃんと月城さんって、家同じ方向だったよね?俺こっちだから……」

「待って!」

あたし達の帰路とは逆方向に、足を動かそうとした櫻井くん。

その手を掴んで止めたのは……愛海。


「あのっ、もうちょっと付き合ってもらってもいいかな……?」


少し震えた、愛海の声。

分かっていたことだけど、胸がチクンと痛む。

でも同時に、彼の視線がこっちに向いたのを感じて……、

「あたし先に帰らないといけないから、良かったら付き合ってあげて」

にっこりと笑顔を浮かべて、言った。