あたしは肩から斜めにかけた、ポシェットの中に手を伸ばす。
小さな限られた空間。探していたものはすぐ手の中に収まって……、
「返す」
その手を櫻井くんの前へと突き出した。
「何?」
「いいから受け取って」
握りしめて、グーの形になった手。
櫻井くんが片方の手のひらを近づけてきて、やっと力を緩める。
あたしの手から、櫻井くんの手に滑り落ちたのは……
ふたつの飴玉。
それは以前、彼があたしにくれた、3つの飴玉のうちのふたつ。
櫻井くんは初め、意味が分からなかったようだけど、
「こんなの返されても困るよ」
すぐに思い出すことが出来たらしく、苦笑した。
夏の高温で少し溶けてしまった飴玉。
こんなの、返すようなものじゃない。
分かっているけど、返す他なかった。
食べてしまえば、彼の気持ちを受け入れた気がして……嫌で。
かと言って、捨てることは出来なくて。
彼が親切にしてくれた証。
手元になんか置いておきたくない。
彼とあたしの接点は、ひとつでも多く断ち切っておきたい。
だって、もう決めた。



