ストラップを片づけ続ける彼に、あたしは小さく声をかけた。
顔を見ると言えなくなるから、少し視線を落として。
かなり無理をして……まさに意を決して伝えた言葉。
なのに、彼から何の言葉も聞こえてこない。
もしかして、声が小さすぎて聞こえなかった……とか?
有り得る気がして、あたしは顔を上げて隣を見た。
すると、
「……」
これ以上ないほどに、バッチリと重なった視線。
櫻井くんはあたしを見て、目を真ん丸にしていて。
数秒間の間を置いて、
「……え」
たった一文字の返事を、やっと返してきた。
予想通りと言えば、予想通り。
あたしからお礼を言われるなんて、櫻井くんはこれっぽっちも思ってなかったはずだから。
でも、彼がこれほどまでにキョトンとするのは初めてで。
何だかものすごく恥ずかしいことを言ってしまった気分になる。
そんな顔しないでよ。
「あたしだって、あなたにお礼なんか言いたくなかった。でも、あなたが中途半端に……」



