恋を知らない人魚姫。


「もっ、海憂……っ!」

少し焦った様子で、愛海が小さく叱る。

あたしは苦笑しながら「ごめん」と謝って、

「あとはやっておくから、先に支払い済ませて来なよ」

何も持っていない方の手を、愛海の前に差し出した。

「え、でも……」

「いいから。行っておいで」

戸惑う愛海にニコッと笑顔を作って、無言で思いを伝える。

すると愛海も、

「ありがとう……」

拾ったストラップをあたしの手に乗せて、ホッとしたように微笑んだ。



「そんなに俺とふたりになりたかった?」

愛海がレジへと向かって行ってすぐ。
後ろに立った櫻井くんは、あたしに話しかけてきた。

様子がおかしかったのを忘れてしまうくらい、いつもの軽い調子。

あたしは静かに立ち上がって、

「そうね」

彼に背を向けたまま、一言返事した。