「……あなたなんかに、愛海を任せられないから」


思い通りのことを言うのは、嫌だった。

だから“友達”として、正しいことを口にした。

なのに櫻井くんは、「嘘つき」と言わんばかりに、クククと笑う。


愛海以外の人間に、興味なんてなかったあたし。

だけどこの人、櫻井くんは……“嫌い”だって心の底から思った。


「じゃあさ……」

櫻井くんは、体を全部あたしに向ける。


「海憂チャンが、俺と付き合ってよ」


少しある身長差を縮めるみたいに、軽く屈んで言われた言葉。

その言葉は……予想通り。

何かを企むような笑みを浮かべて待つ彼も、あたしの返事を予想出来ているんだろう。

あたしは一度目を瞑った後、真っ直ぐに彼の顔を見て言った。


「……いいよ」



愛海とあなたが付き合って、

あなたに愛海を盗られてしまうくらいなら……

あたしがあなたと付き合う。




それは、全ての始まり。

この時のあたしは、愛海を自分から離さないようにすることに必死で、

この決断が全てを壊してしまうなんて、微塵も思っていなかった――。