恋を知らない人魚姫。


“ごめん”の一言で、全てを水に流すことが出来たらいいのに。
バレてしまったら取り返しのつかないことを、もう随分としてしまっている。

そんなことも知らず、静かな笑顔を浮かべ、「良かった」と小さく口を動かす愛海。

いたたまれない気持ちになって、握った手が震えてしまいそうになって、あたしは気づかれてしまう前にと、手を離した。

出来ることならこのまま、顔も逸らしてしまいたかったけど、

「海憂」

さっきとはまるで違う穏やかな声が、あたしを引き止めて。


「今日この後ね……たっくんに告白しようと思うんだ」


愛海はあたしをまっすぐに見て、そう言った。


「今日……するの?」

「うん、このまま先延ばしにしてたって意味ないし。海憂に迷惑かけちゃうだけだから」

「迷惑なんてそんな……」

上手く言葉が続かない。

今の今まで罪悪感を感じていたはずなのに、告白という言葉の前に動揺しているあたしがいて。

ドクンドクンと大きくなった鼓動。

嫌だ……なんて、もう思ってしまっている。