気付かないで。……なんて、無理な願いだけど、そう思わずにはいられなくて、ドキドキしながら祈るように愛海の目線を追った。
そこに、
「あっ!これ可愛いよ!」
隣から突然聞こえた高い声。
そして次の瞬間、小麦色に焼けた細い腕が、愛海の頭の上を通って……ひとつのストラップを手に取った。
それは、あたしが気付かないでと願っていたもの。
ブルーとピンクの、イルカのペアストラップ――。
「初デートの記念にさ、これ買って一緒に付けよ?」
甘えるような猫なで声で言ったのは、同い年くらいの女の子。
その隣には、やっぱり同い年くらいの男の子が立っていて、誰がどう見てもカップル。
「そういうの、恥ずくね?」
「付き合ってんだからいいじゃん、ね?お願いっ!」
「んー……」
彼女に押されて、少し考える男の子。でも、
「分かったよ」
参りましたと言わんばかりの表情で呟いて、女の子の手からひょいとストラップを取り上げた。
仲睦まじく初々しい、恋人の様子。
「いいなぁ……」
小さく呟いた声が下から聞こえた。



