恋を知らない人魚姫。


人の合間を縫うように進んでいく愛海。

「待ってっ……」

慌てて追いかけるけど、周りの人達が邪魔で思うように進めない。

愛海が向かう先は、あたしが見つめていた場所。

――そこには行かないで!

心の中で叫んだ声が届くはずもなく、あっさりとその場所まで辿りついてしまった。


「お土産と言ったら、やっぱりストラップだよね。教えてくれてありがとう」

少し遅れて追いついたあたしに、愛海がそう笑いかける。

その言葉通り、目の前に並ぶのは何種類ものストラップ。
でも……それを教えたくて、この場所を見ていたわけじゃない。

本当は真逆。
この場所に近づいて欲しくなくて……恐れる気持ちから、目が行ってしまっていた。

そんなことに気付くはずもない愛海は、ブツブツと友達だろう子の名前を呟きながら、しゃがんで真剣に物色する。

まだ気付いていない。
その視線の少し上にある、ペアストラップ。

ここに来て、急に気まずいような気持ちに襲われたのは……これが原因。

これがあるから、ここには来たくなかった。