恋を知らない人魚姫。


そんなあたしの心配とは裏腹に、

「2時間じゃ仕方ないよ」

一時の躊躇いもなく、返事をする愛海。

最もな言い分だけど、大好きなイルカのショーを逃したわりには、あまりにあっさりとした対応。

「本当に?」

しつこいかもと思いながらも不思議で、つい口が動く。すると、

「もしかして海憂は待ちたい?」

「えっ、いや、そういうわけじゃなくて……」

当然と言えば当然の切り返し。
ここまで言ったら、あたしがどうしてもショーを観たいみたい。

今度は愛海が首を傾げて、不思議そうにあたしを見る。

「えっと……」

何て説明すれば良いだろうと考えていると、

「また来たらいいじゃん」

後ろから会話に混ざって来たのは櫻井くん。

「だからっ……」

イルカのショーがそんなに観たいわけじゃない。それを言おうとしたのに、言葉は最後まで口に出来なかった。

何故なら、

「うんっ!」

櫻井くんの言葉に、今日一番の笑顔で愛海が頷いたから。