恋を知らない人魚姫。



それから、もう少しイルカの泳ぐ姿を見て、あたし達はまた順路に沿って歩き出した。

この前来たときは、ゆっくり見ることの出来なかった館内。
今日は今日で色々と考えてしまって、楽しむ余裕なんてやっぱりなかったけど、今やっと落ち着きを取り戻して歩いている。

この余裕が、どこから生まれたのかは分からない。

でも、自分でも不思議なほど、気持ちは穏やかで……。


最後に辿りついた先は、屋外プール。

そこはあの日、イルカのショーを観た場所で、今日も……なんて、内心期待していた。

だけどプールサイドの観客席には、人ひとりいない。

「あー、ちょうどさっき終わったばっかりみたい」

出入り口すぐのタイムスケジュールを見て、愛海が声を沈ませる。

「次は?」

「今からだと、2時間近くあるよ」

「2時間か……」

一通り回り終えてしまったし、それだけの時間を今から潰すのは難しい。

でも……。

「残念だけど、今回は諦めた方が良さそうだね」

愛海の声が聞こえて、あたしは「いいの?」と聞き返した。

だって、一番楽しみにしていたのは、きっと愛海なのに。