恋を知らない人魚姫。


「え……?」と声を漏らす愛海に、櫻井くんは無言。

彼がどんな顔をしているか、あたしには見えないけど、微笑んでいるような気がした。


そして、櫻井くんの行動に、頭の中が真っ白になる。

乗せられた手はすぐに離されたけど……。

……何?どういうこと?

でも追い詰めるようなことをしたのは櫻井くんなのに、「頑張んなきゃ」って……。


ムカツク……はずなのに、どういうわけか憎めない。

それどころか、喉の奥がピリピリ痛くなる。

やだ……。
何で……こんなところで。

込み上げてくる感情に、彼の背中を見上げていた顔を下ろし、俯くと、

「海憂?」

愛海の呼ぶ声が聞こえて、ドキッとした。

今こっち見ないで!

ギュッと反射的に目を瞑る。

すると、

「でもさ、イルカって偉いよね」

こっちを覗こうとする愛海の行動を止めたのは、櫻井くんの声だった。