恋を知らない人魚姫。


「え……?」

「あたしはこの子たちが羨ましい」

とても窮屈な小さな世界。
でも、誰にも危害を加えられない、邪魔もされない平和な世界。

そこに好きな人とふたりきりなら……可哀そうなんかじゃなく、とても幸せなことだと思う。

目の前のイルカがどういう関係かは分からないけど、仲睦まじく泳ぐ姿はあたしの目に、とても羨ましく映って……。

さっきの、水中トンネルでの、あたし達の姿と重なって……。


ゆっくりと顔を隣の愛海に向ける。

すると、さっきまで食い入るようにイルカを見ていた愛海は、あたしの方を見て驚いた顔をしていた。


“あたしもあなたとふたりきりの世界で生きたい”

そう伝えたら、あなたは一体どんな顔をする……?

伝えたいけど伝えられない。
それは、あたしだけの秘密の気持ち。


言葉の意味を読み取ろうとしているのか、あたしを見つめたままの愛海。

秘めた気持ちをほんの少し出すように、やんわりと微笑んだ……その時、

「ちゃんと広い世界見ないと、ダメだよ」

彼の声が、あたしと愛海の世界に割って入ってきた。