恋を知らない人魚姫。


何て気持ち良さそうに泳ぐんだろう……。

一面に広がる水槽の中に、2匹のイルカ。
お互い気ままに泳いでいるように見えて、合図を取っているみたいに近づいたりする。

「あたし、動物の中で一番イルカが好き」

すぐ隣まで歩いて行った所で、愛海が小さく呟いた。

櫻井くんと3人で、ここには来たくない。
そう思っていたけれど、イルカを前に目をキラキラさせる愛海の姿に、来て良かったと思い直す。

だけど、

「でも、こんな水槽の中にずっと入れられてるのって、可哀そうだよね。本当はもっと広い海で泳げたはずなのに……」

ひと言前とは打って変わって違う表情。
目を細め、今度は寂しそうに愛海は言った。

その発言に、あたしは再びイルカに視線を戻す。

そこには相変わらず、滑るように泳いでいく2匹のイルカの姿。

確かにイルカからすれば、水槽の中は狭いだろう。

それでも……。

「可哀そうなんかじゃないよ」