恋を知らない人魚姫。


これで今日何度目――?

再び重なる視線。
ゆっくりと微笑む彼の表情に、ドクンと大きく鼓動が跳ねる。

何かを企む表情なのか違うのか、動揺してもう見分けがつかない。

とにかく、これ以上目を合わせていたらおかしくなりそうな気がして、あたしは視線を逸らそうとした。

だけど、

それより早く櫻井くんの手が動いて……。

逸らしかけた視線は、その動きに奪われる。


1本だけ延ばされた人差し指。

櫻井くんはあたしを見たまま、何かを指差した。

それは……。


「海憂見てっ!イルカ!」

彼の指を追ってそれが目に映った瞬間、愛海がこっちこっちと手招きしながら声を上げた。


青い光が優しく降り注ぐ、大きな水槽。

その中をスウッと泳いでいくイルカ。

あたしはその姿を見つめたまま、ゆっくりと歩みを進める。