恋を知らない人魚姫。


あたしが愛海に大切に想われて、櫻井くんが“良かった”と感じる意味は分からない。

でも、彼が現実に見せた表情は、そう捉えてもおかしくないものだった。


睨んでいたのを見られたあの時から、いつもと様子が違う櫻井くん。

……いや、待って。そうだっけ?
よくよく考えてみれば、彼が送って来たメールもおかしい。

最近ご飯を食べられずにいたこと。確かに彼は知っていたけど、

何であたしのことを心配したりなんかするの……?

心配と言えば、飴を渡されたあの時も。
放課後、暗くなった道を送ってくれたあの時も。

考えれば考えるほど思い出す、櫻井くんのおかしな言動。

それは初めて異変を感じた時を、特定出来ないほどに溢れてきて……。


俯き気味だった顔を上げて、前を見る。

すると、数歩前を歩いていたはずの彼は、いつの間にか立ち止まっていて。

次の瞬間……あたしの方を向いた。