恋を知らない人魚姫。


何で……。怒っていたんじゃなかったの?

彼の表情に、ただただ目を見開く。

「仲良いよ?だって親友だもん!」

すぐ隣にいる愛海の声が、耳元を通り過ぎて。

その直後だった。

愛海を向いていた瞳が、突然あたしへと移り――、

「良かったね」

彼はひと言、そう言った。


「え?どういうこと?」

唐突すぎる彼の発言に、疑問の声を漏らしたのは愛海。

普通ならここで嫌な予感がして、背筋がゾッと凍りつく……そんな感覚に襲われている。
だけどあたしはまだ、櫻井くんを驚いた様子で見つめていて。

それは……。

「月城さん、愛ちゃんのことすごく大切に思ってるから」

あたしと目を合わせた彼がまだ、優しく微笑んだままだから。


彼の発言と彼の表情。
合わせて考えると……何が何だか分からない。

いつもの上辺だけの笑顔なら、裏で考えていることも予想出来るけど……。