恋を知らない人魚姫。


そのまま、腕を引かれるままついて行く。

こうして愛海に連れられることは珍しくないけど、戸惑ったのは……すぐ近くに櫻井くんもいるから。

今までずっと、彼とばかり話していた愛海。

だから、こうしてあたしの腕を取ってくれたことが少し不思議で……。


「わぁ!」

一歩足を踏み入れたそこは、海の中。

一面に広がる青い景色の中、すごいすごいと愛海が飛び跳ねる。そして、


「ね!」と突然、こっちに笑顔を向けて来て、

「うん……綺麗だね」

あたしはこくんと頷いた。


愛海からすれば、何でもない行動だったのかもしれない。

だけどあたしは、繋がれた手も、向けられた笑顔も、とても嬉しくて。


愛海とふたりで来たみたいな錯覚に陥りそうになった時、

ふと背後に人の気配を感じた。