――カタンカタン。

空調の効いた涼しい室内。
小さく揺られる、あたしの体。

「あははっ、先生そんなこと言ってたの!?」

すぐ隣から聞こえるのは、愛海の楽しそうな笑い声。

でも、その声はあたしへ向けられたものではなく……櫻井くんに向けたもの。

水族館のある町へと向かう電車の中。
長椅子に、あたし達は愛海を真ん中にして座っていた。


今から数十分前。
櫻井くんからのメールを読んで、足を止めたあたし。

あの時、このままふたりの前から消えてしまおうと思って。

右足を一歩後ろに出した……その時、

『月城さん?』

振り返った彼が、あたしを呼んだ。


用事が出来たと言って、あのまま立ち去ることも出来たはず。

だけど、櫻井くんと目を合わせたあたしの足は……後ろじゃなく、前へと進んでいた。