恋を知らない人魚姫。


今度は何を言われるんだろう。
予想出来るようで、出来ない彼の発言。

流れる沈黙の時間に、胃の奥が気持ち悪くなって、背中に嫌な汗をかく。

何か言うなら、早く言えばいいじゃない。

わざと焦らされているような気がして、あたしは唇をぎゅっと噛んだ。

――だけど。

「大丈夫なら良かった。暑いし体調悪くなったりしたら、すぐ言って」

耳に入って来た櫻井くんの声。
その言葉は、あたしに対してのものじゃなくて……。

思わず彼の方へと顔を戻す。すると、

「月城さんもね」

櫻井くんは、分かっていたかのようなタイミングでこっちを向いて、いつもの上辺だけの笑顔で言った。

何で……何も言わないの?

あたしはポカンと口を開く。

あたしをからかう絶好のチャンスに、彼が気付かないわけがない。
でも、やっぱり気付かなかった……?

そう思い直したのは、「それじゃ行こうか」と、彼がそのまま歩き出したから。