恋を知らない人魚姫。



「大丈夫?」

あたし達が化粧室を出てすぐ。
心配する声をかけてきたのは櫻井くん。

愛海は少し驚いた顔をした後に、

「うん、大丈夫。待たせちゃってごめんね」

申し訳なさそうに両手を合わせた。

結局あたしは、愛海に何も言えないまま。
何かひとつでも言葉を返してあげたかったのに、櫻井くんを目の前にして、もう何も言えない。

何でこんな近くで待ってたりするの。

自分勝手で理不尽だけど、愛海に優しく声をかける彼を睨んだ。

こっちを見ていないと思ってした行動。
だけど、あろうことか彼はあたしの方を向いて――。

っ!!

視線が重なったその瞬間、あたしは思いっきり顔を逸らした。


……あからさますぎる行動。

何てことをしちゃったんだろうと、すぐに後悔する。

睨んでいたのを本人に見られて。
それで顔を逸らしたなんて、そんなの……

彼が面白がって、からかってこないわけがない。