恋を知らない人魚姫。


あたしと愛海の間を通り過ぎて行く女の子達。

そんな彼女らの姿を目で追いながら、

「そろそろ戻ろっか」

愛海はひと言声をかけて、女の子達とは逆の方向に歩き出す。

「あっ、愛海っ……」

呼び止めて何か言いたいことがあるわけじゃない。
あるわけじゃないけど咄嗟に、名前を呼んでいた。

あたしの声に足を止めた愛海は、ゆっくりと振り返って、

「さっき言ったことは忘れて。緊張しすぎて今日のあたし、ちょっとおかしいみたい」

苦笑しながらそう言った。


あくまで普通の態度に戻そうとしてくれている愛海。

でも、あたしの方が普通じゃいられなくなっていた。


緊張してご飯もちゃんと食べれなくて、些細な言葉のひとつであたしなんかを羨ましいと思う。

それほどに愛海は、本当に櫻井くんのことが好きなんだ……。