恋を知らない人魚姫。


あたしが忘れてしまうくらい彼の発言を気にしていなかったのは、それが愛海に対しても言われた言葉だったから。

それに始めに言われたのは愛海で、あたしはついでに言われただけ。

なのに、言い返したあたしを見て、愛海は不満そうに眉を寄せる。

そして、

「あたしは“今日可愛い”って言われたの。でも海憂は“今日も可愛い”って言われたもん」

頬を膨らませ、拗ねた子供のように言った愛海。

「……え?」

意味が分からなくて声を漏らすと、

「海憂は毎日可愛いって思われてるってことでしょ」

愛海は寂しそうに呟いて、また鏡の方へと向いた。

「……」

正直、彼の発言をそこまで鮮明には覚えていない。
だけど本当に言ったとしたなら、それは小さな言い間違え。

“言い間違えただけだよ”って笑ってみせればいいのに、それが出来ないのは……

鏡に映る愛海がとても悲しそうな顔をしているから。