恋を知らない人魚姫。


「……普通にしてたら大丈夫だよ。愛海は自信持っていいと思う」

あたしは微笑んで、愛海を励ます言葉をかけていた。

愛海の恋を応援してると言ったら嘘になる。
でも、その発言に嘘はない。

“普通にしてたら大丈夫”
櫻井くんは愛海のこと……気に入っているから。

むしろそれは、あたしからすれば口にしたくない励ましだった。

……なのに、

ゆっくりと目線を上げた愛海は、不快そうに眉を寄せ、

「自信なんて持てない」

潤んだ瞳に震える声で、そう言った。

「えっ?」

今にも泣き出しそうな顔に、ただ驚く。

すると愛海は、あたしに向けていた体を鏡の方へと向き変えて、

「海憂が羨ましい」

寂しそうな目をして、呟くような小さな声でひと言告げた。

羨ましい……って、

「……何が?」