恋を知らない人魚姫。


「もしかして……ご飯食べられなかったのって、緊張してたから?」

恐る恐る口にしたあたしの言葉に、愛海はこくこくと頷く。

「でも、あんなに普通に話してたじゃん」

そう。途切れる間もないほど、愛海は櫻井くんと会話を弾ませていた。
だから緊張してるなんて、微塵も感じなかったけど、

「あんなの空元気みたいな感じだよ。何か喋ってないと、どうしたらいいか分かんなくなる……」

顔を赤く染めたまま、戸惑った表情で目線を落とす愛海。

これで何度目だろう。
何度見ても胸がぎゅっと苦しくなる、恋をしている愛海の姿。

そんなに思いつめて考えないで。
櫻井くんのことなんて、そんなに考えないでよ。

モヤモヤした気持ちが心の中に渦巻く。

このまま愛海が思い悩んで、櫻井くんとの距離が縮まらなければ……なんて、汚い考えさえ浮かぶ。

だけど、目の前には苦しそうな顔をした愛海。