恋を知らない人魚姫。


よく食べるのは、どっちかというと愛海。

細くて華奢な体つきだけど、お弁当を食べた後にお菓子を食べたりすることもよくある。

それなのに、今日はどうしたんだろう……。

櫻井くんと話す姿は明るくて、元気そのものに見えた。
でも、本当は体調が悪かったりするのかもしれない。

様子を見ながらそれとなく話しかけてみようと、席を立ちながら思った。



会計を済ませ、お店を出てすぐ。

「……ちょっとお手洗い行って来てもいいかな?」

少し言いにくそうに、口を開いたのは愛海。

「ん?いいよ?」

改札口へと向かおうとしていた櫻井くんが振り返って言うと、

クイッ。

“ついて来て”とばかりに、愛海はあたしの袖を掴んだ。

そんなことされなくてもきっとついて行ったけど、今日初めて必要としてくれた感覚が嬉しくて。

あたしは思わず微笑んだ。