恋を知らない人魚姫。


「ふたりって、好きな食べ物も一緒だったりすんの?」

注文を聞いたウエイトレスさんが遠ざかってすぐ。
机に頬杖をついて、斜め前に座った櫻井くんが口を開いた。

「うーん……そういうわけでもないよね?」

さっきのことはもう気にしていないのか、いつも通りの明るい声で同意を求める隣の愛海。

その問いかけ通り、食べ物の好みが一緒ってわけじゃない。
愛海は生クリームがこれでもかってくらい乗っかったパフェとか大好きだけど、あたしはそういうのが苦手だったりする。

意外にも普通な愛海の態度に安心して、「そうだね」と軽く微笑んで返事すると、

「同じもの頼むから、一緒なのかと思った」

櫻井くんは苦笑にも似た笑顔を見せた。


じゃあどうして注文した内容が被ったのかと聞かれたら、何を頼むか決められなかったから。

食べたい物を考える余裕さえなくて、手っ取り早く愛海と同じものにしただけ。