恋を知らない人魚姫。


「もう昼だしさ、先にご飯食べてかない?」

にっこりと笑って、彼は言葉を続けた。

「あ……うん。そだね」

戸惑いながらも返事をする愛海。

「月城さんもそれでいい?」

「えっ、うん」

不意に話を振られたあたしが考える間もなく頷くと、

「じゃあ、とりあえず中入ろっか」

櫻井くんは駅ビルの方へと歩き出した。


“羨ましいな”と、呟いた愛海の言葉。
あたしに聞こえて、彼に聞こえなかったわけがない。

話を逸らしてくれたのは助かったけど、これじゃ何だか愛海の言葉を無視したみたい……。

思って隣を歩く愛海を見ると、案の定複雑そうな表情を浮かべていた。



ビクビクと怯えるような気持ちを抱えながら、あたし達が入ったのはファミレスみたいな洋食店。

外の景色が見える窓際の席に座って、櫻井くんはハンバーグセットを、愛海とあたしはオムライスを注文した。