笑顔だけど、笑顔じゃない。
さっきまで愛海に向けていたとは表情と全く別物のそれは、
あたしを追い詰めて楽しんでいる……悪魔的な笑顔。
「何?どういうこと?」
愛海があたしと櫻井くんを交互に見て、首を傾げる。
彼の言葉の意味は分かってる。
この前の待ち合わせとは違う場所にいたから……って、そういうこと。
でも、ふたりで会ったことは、もちろん愛海には言えなくて。
何て誤魔化せばいいのか分からない。
困りに困って、ポシェットの肩ひもを持つ手に力が入る。
絶体絶命。
あたしには答えられないって思った、その時だった。
笑いを堪えきれなかったみたいに、フッと吐き出された小さな息。
「この前たまたま会ったんだよね?」
視線を上げてみると、櫻井くんはまたあたしに笑顔を向けていた。
この人、完璧にあたしの反応を面白がってる。
……最悪。
思いが溢れて、一度彼を睨みつける。



