ほんの数秒、時が止まったみたいだった。
あたしを真っ直ぐに見つめる強い眼差し。
他にいるはずの人の姿が見えなくなって、周りの音が聞こえなくなって、目を合わせた人とふたりきり……そんな錯覚に陥る。
だけど、
「あっ、たっくん!!」
横から聞こえた弾むような高い声。
その声にハッとして隣を見ると、愛海が嬉しそうに大きく手を振っていた。
あたしは追うように視線を戻す。
すると、さっきまで目を合わせていた彼は、愛海に向かって手を振りながら、こっちに歩いて来ていて……。
あたしにももう一度目を向け、笑顔で手を振ってきた。
「あれ。俺、もしかして遅刻?」
あたし達の目の前に立った彼が、額に微かな汗を浮かべ、何かを探しながら言う。
探しているものは……きっと時計。
「ううん全然。あたし達がちょっと早く来ちゃっただけ」
すぐさま笑顔で答えたのは愛海。



