“今日だけは”

聞かなくても分かる、その言葉の意味。

あたしが髪を上げる、その程度のお洒落で愛海の今日の計画を妨げられると言うのなら、

あたしは逆に髪を上げてしまいたい。


でも、目の前の愛海は大きな瞳を不安げに揺らしていて。

こんな表情をされたら、どんなことでも逆らえない。


「……分かった」

あたしは静かに微笑んで、髪を束ねて持ち上げていた手を離した。

パサッと落ちて、一瞬にして元に戻った髪。
涼しかった首もとは隠れ、いつもの慣れた感覚に戻る。

「ありがとう、ごめんね」

罪悪感を感じているのか、未だ浮かない表情の愛海。

「全然いいよ。暑いし、ちょっと上げてみようかなって思っただけだから」

笑顔を取り戻してもらおうと、あたし自身気にしてない素振りで笑ってみせた……けど、

愛海が安心したようにふっと笑顔を見せると、胸がチクンと痛んだ。