……なんて、何考えてんの。

あの人にお礼なんか言うことない。
あたしを苦しめることばかりする、そんな人なんだから。

ここまで送ってくれたのだって、別に心配だからとかじゃなく、あたしを困らせたかっただけかもしれない。


そう考えた方が自然。

そう思い直そうとするのに、どういうわけか消えてくれない罪悪感。

それどころか……。


あたしはスカートのポケットへと手を伸ばして、ある物を取り出した。

それは、ふたつの飴玉。

そういえば、この時のお礼も言ってない……。


手のひらに乗せた、それを見つめて眉を寄せる。

櫻井くんの『大丈夫?』って声が、頭の中に蘇る。


あたしのこと、縛り付けて苦しめているのは櫻井くん。

なのに……何でたまに優しくするの。


世界で一番嫌いな人。

そんな人が通って行った道を、あたしは睨み付けて見るのではなく、

切ない気持ちで見つめてた――。