――深く考えるのはやめよう。

櫻井くんとは逆方向に向き直る。


教室で歌っていた、あたしの気持ち。
彼が気付いたかもしれないのは、人より少し鋭いから。

あたしが愛海を好きなこと、知っていたくらいだもん……。


言い聞かせるようにして、足を前へと進める。

もうひとつの曲がり角を過ぎれば家で、もう目と鼻の先。


だけどその曲がり角の直前で、あたしは足を止め振り返った。

慌てて目で探すのは、櫻井くん。

でも、暗く染まり始めた広がる道に、彼の姿は既にない。


……櫻井くんって、どの辺りに住んでるんだろう。

詳しくは知らないけど出身中学が違うから、この辺じゃないことは分かる。
もしかしたら電車通学とか、バス通学とか、それくらい遠い所に住んでいることも考えられる。


あたしが送ってって言ったわけじゃない。
言ったわけじゃないけど……こんな所まで送ってくれたのに、あたしは何も言ってない。