少しずつ開いていく彼との距離。
「カラオケには絶対行かないから!」
その背中に怒鳴り声に近い声をぶつけると、櫻井くんは顔だけで振り返って手を振った。
……本当はこんなことを言いたいわけじゃない。
違うって、言いたいことは別にあるって分かっているのに、肝心の言葉が見つからない。
そんなあたしの気も知らず、真っ直ぐ歩いていく櫻井くん。
彼の姿を黙って見送りながら、あたしの頭の中ではさっきの言葉が繰り返されてる。
『見つけて欲しいって歌ってるみたいだったけど』
……そんなわけない。
だって実際、彼に声を掛けられた時、恥ずかし過ぎて逃げたくなった。
相手が誰でも抱いた気持ちは一緒だったと思う。
それに、
『愛ちゃんじゃなくてごめんね』
別に愛海に聴いて欲しくて歌っていたわけでもない。



