恋を知らない人魚姫。


あたしが見つけて欲しそうに歌ってるから声をかけた……?

……何それ。馬鹿馬鹿しい。

思うのに、今すぐ否定してやりたいのに、どういうわけか声が出ない。

それどころか、胸の奥をグッと掴まれた……そんな感覚があたしを襲う。


「この答えじゃ納得出来ない?」

無言になるあたしをからかうように、櫻井くんが笑って言って。

「っ……」

あたしは何も言えずにただ、彼から顔を背けた。

これじゃ本当に図星みたい。
反論しなきゃって思うのに、何の言葉も出て来ない。

嫌な汗が背中を伝う。

あたし何でこんなに動揺してるの……?

自分が呼び止めてふっかけたことなのに、今逃げたくてしょうがない。


どうしたらいいか分からずに、そのまま黙っていると、

櫻井くんは少しかがんで、あたしの方へと顔を寄せた。

そして、


「愛ちゃんじゃなくてごめんね」