恋を知らない人魚姫。


「さっき?」

「先生が来る前。どうしてあたしに声を掛けたのか、言おうとしたじゃない」

誰もいない教室で歌っていたこと。
掘り下げて思い出されるのは嫌だったけど、どうせきっと忘れてくれない。だったら追及してしまえと、開き直って見つめる。

櫻井くんは「あぁ……」と軽く相づちを打って、

「あの歌、誰に聞いて欲しかった?」

質問に質問を投げ返してきた。

何だか順番を抜かされた気分。
思わずムッとするけど、反抗する言葉は飲み込む。

「別に誰にも……」

この感じだと、きっとまたからかわれるだけだ。

目を逸らして答えながら、質問したことを後悔した。

やっぱり櫻井くんの発言に、深い意味なんてなかったんだ……と。

だけど、


「そう?まるで見つけて欲しいって歌ってるみたいだったけど」


鼻先で笑って言った彼は、「だから声かけたんだ」と、付け足した。