恋を知らない人魚姫。


元気そうだったから……?

まるで、あたしのことを心配していたみたいな言い方。

「それじゃ、気を付けて」

再びポンッとあたしの肩に手を乗せて、櫻井くんは背を向けようとする。

だけど、

「……何?」

すぐに振り返って驚いた顔をしたのは、あたしが彼の手を掴んでいたから。

今度はあたしが引き止めた。


「自分だけ言いたいこと言って……ずるい」

教室での言葉も、今の言葉も、櫻井くんの言葉はいつも意味が分からない。

言った本人は何とも思っていないのだろうけど、あたしはいつも困惑する。

そんな状況がとても腹立たしくて、咄嗟に彼の手を掴んでいた。


キョトンとした顔で、あたしを見つめる櫻井くん。
だけどゆっくりと口角を上げる。

「じゃあ月城さんも言いたいこと言ってよ」

「……え」

「言いたいこという俺がずるいんでしょ?だったら月城さんも言いたいこと言えばいいじゃん」