恋を知らない人魚姫。


自転車に乗って向かって来た人が、すれ違いざまにあたし達を見る。
そんな視線もお構いなしに、お腹を抱えて笑い続ける櫻井くん。

何がそんなにおかしいって言うのよ。

こっちからしたら、その笑いは不快なだけ。

「あたし、帰るから」

付き合ってられない。
そう思ったあたしは、踵を返して家路に就こうとする……けど、

「待って」

あたしの肩を掴んで、櫻井くんは引き止める。

「ごめん、相変わらずだったからつい」

相変わらず?つい?

ごめんという謝罪の言葉から、それが笑ってしまった理由だということは分かるけど、理解は出来ない。

とにかく、

「早く帰りたいんだけど」

ムスッとした顔で言うと、彼はまた小さく笑って。

「まぁいいや。思ったより元気そうだったから」

あたしの肩に乗せた手を下ろした。