恋を知らない人魚姫。


だって、『俺と一緒にいんの嫌?』って、何かそれって……。

思いかけて止める。

……そんなわけない。
きっとあたしをからかって、面白がっているだけ。

「聞かなくても分かるでしょ」

目を逸らしたまま、あたしが冷たく答えると、目の前からは堪えるような笑い声。

そして、

「そんなに俺と一緒にいたいの?いいよ、家まで送るよ」

櫻井くんはあたしを追い越して、歩き出す。

「ちょっ……!」

やっぱりこの人、あたしをからかって遊んでるだけだ!

確信したあたしは、再度彼の前へと回り込んで、

「一緒にいたいわけないでしょ!?」

さっきよりも大きな声を、思いっきりぶつけた。

悪いのは櫻井くん。だから、自分が発した言葉に罪悪感なんて感じない。

そのまま睨んで彼の顔を見上げると、

「ふっ……はははっ」

櫻井くんは今後こそ、声に出して笑った。