恋を知らない人魚姫。


危ない。次のタイミングで言おうと決めていたのに、ボーッとしていたせいで、家まで送ってもらうことになる所だった。

「それじゃ……」

櫻井くんを追い越そうと、足を前へと出すあたし。

だけど、

「左ね」

彼はくるっと左の道へと向き直し、またあたしの前を歩き出した。

「えっ、ちょっと!?」

今まで黙っていたけれど、さすがにこれには声を出す。

あたしは駆け足で彼との距離を縮めて、

「もう本当にここで大丈夫だから!」

櫻井くんの前に立って、そう叫んだ。


静かな住宅街に響いたあたしの声。

思いがけず大きな声になってしまったこと、さっきのこと……色んな恥ずかしさが重なって、彼の顔を見れない。

すると、


「そんなに俺と一緒にいんの嫌?」


目の前から降ってきた質問。

え……?

あたしは自分の耳を疑った。