カタン。

貸出しカウンターの椅子を引いて、あたしはそこに座る。

そして、鞄から本を一冊取り出すと、しおりを挟んでいた部分を開いた。


図書室に置いてあるのは、真面目な堅苦しい本ばかり。

調べ物や勉強に来る人はチラホラいるけど、本を借りに来る人なんてほとんどいない。

他人と関わる機会は、ほとんどない。

それも図書委員を選んだ、ひとつの理由だった。


心配かけたくなくて、愛海の提案を断ったけど、やっぱり一緒に残って貰えば良かったかな……。

空いた隣の席を見て、ぼんやりそう思った時だった。



「これ、借りたいんですけど」

表情のない声と一緒に、視界にずいっと入って来た、分厚い本。

その先には、紺色のズボン。
相手は男子。

「あ……はい」

ここまでの情報だけで充分で。あたしは顔を見ることもなく、差し出された分厚い本を受け取った。

本のタイトルにも興味はない。
直ぐさま裏返して、バーコードを読み取る。

「学年と、クラスと出席番号を教えて下さい」

「3年2組、13番」