「離して!」
彼に対して相当苛立っていた。
だから、そう言って睨んだ顔は、いつになくキツかったと思う。
だけど、
「愛ちゃんは女子と話してるから」
小さくあたしに告げた櫻井くん。
その顔は、驚くわけでも怯むわけでも、いつものようにからかうわけでもなく……真顔。
「……」
あたしの方が驚いて、思わずポカンとしてしまっていると、
「大丈夫?」
彼はそのままの表情で聞いてきた。
大丈夫……って。
「大丈夫なわけないでしょ!? あなたのせいであたしはっ!」
彼の問いかけにハッとして、再び込み上げた怒り。
ここが廊下だということを忘れ、思わず声を張り上げる。
だけどその瞬間、掴まれた腕にギュッと感じた力。
体がビクッと強張って、反射的に口を閉ざす……と、
「そうじゃなくて、体調」
櫻井くんは、表情を和らげることなく言った。



