恋を知らない人魚姫。



『でも、タダじゃ嫌だ』


付け足された言葉に、あたしの舞い上がった気持ちは一瞬にして冷めた。

語尾にはクスッと笑いが混じっていて。
どんな表情をしているか、見えなくても分かる。

そう……そうだった。
この人が簡単に、あたしの言うことを受け入れてくれるはずがない。
この人はこういう人。

「……何をすればいいの?」

あたしの問いかけに、彼は『そうだなぁ』と小さく声を漏らす。


『じゃあさ一度だけ、俺が呼んだら必ず来るって約束しない?』


「そんなのっ……!」

彼が口にした交換条件。
それを聞いてすぐ、あたしは反論の声を上げた。

だってそれじゃ意味がない。
放課後、図書室に呼び出されたりしたら……。

『大丈夫、月城さんの約束はちゃんと守るよ。それに夜中とか無理な時間に呼び出したりもしないから』

頭の中で思っただけで、口に出してはいない不安。
なのにまるで聞こえたみたいに、櫻井くんはそう言った。

「っ……」

そんなこと言って、平気で裏切るくせに。

櫻井くんは嘘つき。
だから信用出来ない。

でも……。