恋を知らない人魚姫。



階段を下りて、玄関で靴を履きかえて、急いで学校を出て。
少し走ったところで、意外にもすぐ愛海に追いつくことが出来た。

いつもとは違って、心なしか力なさげに歩く後ろ姿。

「愛海っ!」

「っ!?」

あたしが名前を呼んで片腕を掴むと、振り返った愛海は目を真ん丸にして、とても驚いた表情をした。そして、

「海憂……」

愛海の口からあたしの名前が零れた瞬間、その表情は沈んで目は逸らされる。

やっぱり勘違いされてる……。

そう思ったあたしは、

「あのっ」

違うということを説明しようとするけど、

「いきなり出て行ったりしちゃってごめんっ!」

先に口を開いたのは、愛海の方だった。

「何かちょっと、びっくりしちゃって……」

そう続けて笑って見せる愛海。
だけど、その笑顔は無理して作っているものだって、一目で分かってしまうくらいに酷い。

何で……何でそんな顔するの?

ズキンと胸の奥が痛む。

本当はあたしと櫻井くんのこと、勘違いしてショックで、笑いたくなんかないくせに。