恋を知らない人魚姫。


だけどそんなの、信じられるはずがない。

「じゃあっ、何でさっき」

あたしと目を合わせたあの時、笑ったりしたのか……それを問い詰めようとするけど、


「どうでもいいけどさ、愛ちゃん追わなくていいの?」


頬杖をついて、でもあたしの目を真っ直ぐ見て、彼は言葉を遮った。

「っ……!」

その発言に思わず息を飲む。

こうなったのは、他でもない櫻井くんのせいだ。
だから彼に偉そうに言われる筋合いはない……けど、それは正しい。

誤解して出て行った愛海を追いかけること。
あたしが真っ先にしなきゃならないのはそれなのに、怖くて追えない自分がいた。
そんな自分を、櫻井くんを責めることでごまかそうとしていた。

全てを見透かされている気がして、彼から目を逸らす。

でも、ギュッと握り拳を作って、もう一度彼を睨みつけた。

そして、

「言われなくても追うわよっ!」

カウンターの上に置いた鞄を取って、あたしは図書室を飛び出した。