「愛海っ!!」

あたしは咄嗟に彼女の名前を叫ぶ。

だけどその声は、自然に閉まろうとする扉に遮られた。

どうしよう……完全に勘違いされた。

夏なのに足が、全身がガクガクと震える。

あたしは泣きそうになりながら、

「……あなたが呼んだの?」

俯いたまま、真横にいる彼に問いかけた。


あの笑顔は絶対そう。この人だ。
聞かなくても分かるけど、聞かないと責められない。

早く白状してよ、早く。

手にギュッと力を込めて、答えを待つ。すると、


「違うよ」


彼は何でもない声で、そう言った。

……違う?

「そんなわけないでしょっ!?」

静かな室内に響いた、怒鳴り声。
あたしはきっとものすごい剣幕で、彼に顔を向けた。

それでも、櫻井くんは平然とした様子で、

「嘘じゃないよ。昨日も今日も愛、ちゃんには図書室に来てとか言ってないよ」

ほんの少しだるそうに答える。