恋を知らない人魚姫。


その光景は、ついこの前、愛海のクラスで見たものと重なる。

愛海は嬉しそうに頬を染めて、
櫻井くんは優しい目をして笑ってて……。

あたしとふたりっきりの時と、全然違う。

確かに愛海からしてみれば、“優しい”って、思ってしまうかもしれない。


あたしには酷いことをしておいて、
愛海には優しくする。

それは、つまり――。


見えてはいけない答えが、見えてしまいそうになった、その瞬間。


「それで、どうしたの?」

突発的に愛海の声が、耳に入る。

「あぁ」と、櫻井くんは小さな声を漏らして。

「ふたりが歩いて来るのが見えたから、昨日のお礼を言おうと思ったんだ」

さらりと言った言葉に、ドクンッと鼓動が強く鳴った。


一瞬にして体中に走った、嫌な予感。

焦って彼へと目を向けると、視線がぶつかって……。


「図書委員の仕事、手伝ってくれてありがとうって」

「っ!!」

彼はあたしと目を合わせたまま、笑顔で言った。