恋を知らない人魚姫。


ドクンッ。

びっくりして、あたしの鼓動はとても大きく鳴った。

それが聞こえたわけじゃないと思うけど、
櫻井くんはフッと、何か気付いたように笑って。

慌てて顔を逸らしたあたしとは反対に、

「うん!昨日借りたやつ!……って、おはよう」

愛海がさっきよりもキラキラした声で、挨拶する。

その表情は本当に嬉しそうで……見ていられない。


何で、そんな顔するかな……。
この人はすごく最低な人なのに。

昨日言われた言葉が、今でも忘れられない。

実在しない童話にまで重ね合わせちゃうくらい、深く胸の中をえぐって。

本当に最低。最悪な人。

それなのに、こんな人のどこが……って、そう思った時だった。


ふと思い出した、いつだかの愛海の発言。

彼のことを優しいって、そんなことを言っていた。


あたしはハッと、目の前の光景へと視線を戻す。

すると、愛海と櫻井くんは談笑していて……。