恋を知らない人魚姫。


人魚姫じゃなく、隣国のお姫様との結婚を決めた王子様。

彼を殺してしまえば、人魚姫はまた人魚として生きられた。

それなのに……人魚姫は王子様の幸せを願って、死を選んだ。


そんなの、綺麗ごとすぎる。

好きって、恋って、もっと醜い感情だ。


人魚姫はきっと、恋に恋をしただけ。

本当の恋を知らない。


だから、


「そんなに良い話とは思えないけどな……」

多分、これが初めてかもしれない。

あたしは愛海の意見を、初めて否定した。


これにはさすがに、愛海も驚いた様子で「え……」と、小さく声を漏らす。

そして、

「そんなことっ……」

言い返そうと、発せられた声。

それは、途中で途切れた。

理由は、単純。


「へー……人魚姫」

自分の隣から突然聞こえた声に、あたしはバッと顔を動かす。

すると、そこに立っていたのは……櫻井くんで。