目的のためにはどうしたってエルが必要だが、だからと言って、自分の目的のためだけにエルの自由を奪ってむりやりに従わせるようなことはしたくない。


そのせいでいざというときにエルの協力を得られなくなる恐れもあるし、異形とはいえ同じ人であるエルにそこまで非情になることは、ゼンにはできない。




 だから、逃げたければ逃げればいい。


そのかわり、ゼンが追うのも自由だ。


――それが、エルの自由を縛る自分に、ゼン自身が与えた気休めの妥協策だ。



 だが、願わくは。エル本人の意思でゼンについてきてほしい。



(なんて、あいつをむりやりにさらってきたおれが言っても、綺麗事でしかないか)



 ゼンは内心で呟いて、自嘲の笑みを浮かべた。



 そのときだ。



 ふいに、ぴちゃん、と水を叩くような音がして、ゼンは顔を上げた。



「うわっ!?」



 思いがけないものを見て、ゼンは思わず立ち上がった。



 一メートルもないような、幅の狭い川の向こうに、見覚えのある白い人影を見とめたのだ。



 純白の長い髪に、伏せた瞳は深い深い黒。妖精のような不思議な雰囲気をもつ少女。



 カンパニュラだ。



 少女は川の前に屈みこんで、水面を指でぴちゃぴちゃと叩いて遊んでいた。