ラスト・ジョーカー




「ああ、消えた」


 ゼンは頷いた。



「そいつは十五歳のときに、突然ふつりと誰の前にも現れなくなったんだ。


死んだとも言われているが、遺体は見つかっていない。


もしかしたら社会の裏側でひっそりと生きていたのかもしれないが、証拠はない。


どうなったのかまったくわかっていないんだ。


消えたんだよ、社会から」



 つくづく謎の多い人だ、とエルは思った。


 名前も、能力が現れた原因も、十五歳のあるときからどうなったのかもわからない。


そのくせ、存在感だけは大きく、伝聞による不確実な伝説だけが数多く残っている。



「へんなの」



 エルの呟きはゼンの耳に届かなかったようだ。


ゼンは「話を戻そう」と言って、再び語りだした。



「そいつが消えた後も、一度人々に目覚めた力は、消えることはなかった。

サイキックは増えたといっても、当時の世界人口の六十分の一程度だったが、

その少数のサイキック達による犯罪は、残りの六十分の五十九にとっては、大きな脅威となった。

そして多数派の非サイキック達は、科学の力でそれに対抗しようとした。

そうして世界は、百年にわたる科学技術の急成長期を迎えた。

……が、〈ジョーカー〉が消えたときから、約百年後、つまり、今から四百年前。

庄戸(しょうど)という科学者が、――そいつはサイキックだったんだが、PKの力を借りて、獣の合成に成功した」



 エルはハッと息を飲んだ。



 それは、もしかして。


「異形が作られたの?」